column.1
ピットマスターのドウーチュイムーニー


column.1
ピットマスターの
ドウーチュイムーニー

幼い頃の記憶には、いつも背中を丸めて図面に向かう親父の背中があった。
一級建築士として建築ラッシュに追われ、昼は打合せや現場、夜は桜坂や栄町で会食。
けれどどんなに酔って帰ってきても、製図板に向かい静かに鉛筆を走らせていた。
スピーカーからはジャズ、傍らには湯気立つ珈琲。
子どもながらに、その背中がとてつもなく恰好良く見えた。
 
自然と建築の道へ進み、学び、働き、気づけば建築やーの人生を歩んでいた。
 
時は流れ55歳を迎えた頃、ふと心の奥から「建築以外の何かにチャレンジしたい」
言葉にできないざわめきが湧き上がってきた。

建築が嫌いになったわけじゃない。けれど、もう一度、新しい何かに挑戦してみたくなった。
 
60歳、人生の節目。出会ったのが、ここ「天久の地」だった。
 
深い緑の森。限りなく透明な海の青。真っ赤に燃える夕日。
ごつごつした砂利道、港から出ていく船、空へ吸い込まれていく飛行機。

は~り~には目の前で花火があがり、朝には鳥のさえずりが響く。

「唯一無二の場所」に、気づいたら、迷うことなく決めていた。俺は、建築や~からBBQや~に変わろうと。
 
「なぜBBQ?」と聞かれるが、理由はシンプル。自然が主役で料理人を選ばず誰でも楽しめるからだ。
料理未経験の俺だからこそ「料理はお客様に」と思った。肩書きも年齢も関係なく、火を囲んで笑い合う時間。
 
BBQは料理じゃなく、生きたレクリエーションだ。
 
今年71歳、気づけば10年。振り返れば反省も多い。支えてくれたカミさんには頭が上がらない。
だけど最近、ようやく「様になってきた」と思えるようになった。